ボディメイクバカ一代

そのワンレップに「愛」を込めて

鬼神も之を避く前腕、回転寿司チェーンで老害を退治す

先日、ある有名回転寿司チェーンに家族で入った。

誰もが知る全国規模の有名チェーン店だが、私は今まで入ったことがなく、一体どんなものか少し楽しみでもあった。

いざ入ると、受付から会計に至るまで、すべてがオートメーション化されていた。

注文も全てタッチパネル一つでこと足りた。

一緒に連れていた幼い坊やでも自分ひとりで注文し、いやむしろ、我々のようなデジタルの中で育っていない世代よりもはるかにスムーズに注文できるシステムであった。

そんな坊やにとって、自分で注文したものがレーンにのって流れてくるのは、なにやらアミューズメント的な趣もあるようで、親の指示などおかまいなく次々と好きなものを注文し、たいそう楽しそうにしていたのであった。

「回転寿司とはこんなに楽しいものなのか。しかも、寿司は魚を中心とした良質なタンパク源でもあるし、いい店をチョイスした」

と、私自身も休日の穏やかな時間を演出してくれたお店に大変満足した。

しかし、ある出来事で事態は一変したのであった。

坊やがフライドポテトを注文した…

しばらくすると、レーンの出発口からフライドポテトの乗った皿が流れてきた。

刹那、その出発口付近に座っていた老婆の客が手を伸ばし、坊やのフライドポテトをひとつまみするやいなやそれを皿の中に隠し、周囲をうかがったのちに、あろうことか、そのポテトを口にしたのだった。

私はその一部始終を目撃し老婆もそれに気がついたのか、私と目があった。

しばらく私達は見つめ合ったが、老婆は気まずさからか目をそらし、何事もなかったかのように前方に向き直ったのであった。

私はどうしたものか思案した。

眼の前で行われた悪行を見過ごすべきか、天誅を加えるべきか…

そして、私はひとまず店員を呼び、事の次第を説明した。

店員は、

「新しいものをお持ちしましょうか?あの方に、注意しましょうか?」

と提案した。

私は答えた。

「いや、別に私はことを大きくしようというのではありません。フライドポテト一本程度で新しいものに交換してほしいとも思いません。あの方を注意するかどうかはお店の判断にゆだねます。ただ、こういったことがあり、非常に不快な思いをしたものですから、今後のお店の発展のための参考にでもなればと、お伝えしたまでです」

店員は申し訳なさそうにしながら立ち去ったものの、その後、その老婆を注意するでもなく、そのままルーチンワークに戻ったのであった。

かの老婆はおそらくこの店員と私とのやりとりを見ていたに違いないが、何事もなかったかのごとくその後何皿か寿司を食すと、おもむろに会計の準備をはじめ、そそくさと帰宅の途につこうとしたのであった。

そして私たちの脇を何食わぬ顔をして通り過ぎようとしたのである。

私はここに来て、やはりこのまま見過ごすのは世の中の道理とは違うと思った。

刹那老婆を呼び止めて、

「失礼ですが、お待ち下さい。おわかりと思いますが、私はあなたが何をしたのか見ておりました。そりゃあ、もしかしたら、あなたにだって生活の事情というものがあるのかもしれません。それを考えれば、多少のこと、目をつむるのが世の情けとも思いますし、これをもってあなたを警察に突き出そうなどという考えも私にはございません。しかしながら、他人の食べ物をつまみ食いするというのはいかがなものでしょうか。それもこんな幼い坊やが、健気にも楽しみにしていたものです。一度ご自身の行為について、よく考えられたらよろしいと思います。それを言いたかっただけです」

と、直接指導した。

老婆は観念した様子で

「ごめんなさい」

と一言だけ言い残すと、そそくさと立ち去っていった。

先程まで和やかだった家族の団らんも、なにやら白けてしまい、私達もそれ以上その場で食事をする気が失せてしまった。

残念であるが、私達が今後、この手の回転寿司店に足を運ぶことはなさそうである。

今思い出しても不愉快な話だが、私はこの話を通じて何を伝えたいのかというと、こうして私が世の道理を通すために勇気を振るったのは、実は筋トレの効果であるということである。

ここで多くの読者は思ったに違いない。

「は?つまみ食いの老人を注意したのと筋トレと一体何の関わりがあるのか?」

と。

そう、実はこれは大いに関係があるだ。

もし私が普段から筋トレに励んでいなければ、あの場で老婆に直接指導を加えることなく、見過ごしていたと思われるからだ。

実際のところ、私のその行動のあと、同席していた家族から、

「あんなことはやめてほしい。もし逆ギレされたらどうなるのか」

と忠告を受けた。

つまり世間一般の感覚からして、あのような場で蛮勇を振りかざすと、逆襲されて、かえっていらぬダメージを受けるリスクがあるということなのだろう。

しかしながら、日々鍛錬を重ねている私の肉体を持ってすれば、他人のフライドポテト一本つまみ食いするごときの姑息な小悪党程度、取るに足りないというのが当時の私の見解であった。

事実、先のエピソードの中では触れなかったが、実際のところ私は、かの小悪党に指導を加えるにあたり、さりげなく長袖の裾をまくり、日頃鍛えた前腕を魅せつけながら指導にあたっていたのである。

私の前腕に関わるエピソードについては後日詳述していく予定であるが、私はここのところボルダリングジムに通い、日常のトレーニングにおいても指懸垂を中心とした新しいスタイルを取り入れている。

その甲斐あってか、ここのところ、広背筋に限らず前腕の発達が著しく、私の前腕は強靭な前腕屈筋群を太い静脈が覆い尽くし、まさに「鬼神も之を避く」勢いを呈している。

以前の筋トレをしていない私であれば、今回の件についても、世間一般の感覚にならい小悪党の姑息な悪行に「知らぬ」「存ぜぬ」を決め込んだパターンだったが、「鬼神も之を避く」前腕が私に自信をもたらし、結果、かの小悪党もその前腕を魅せつけられ、内心、「これはどう転んでも勝ち目がない」と観念したに違いない。

つまり、筋トレに捧げた日々によって作り上げられた己に対する信頼と、「鬼神も之を避く」前腕によって、私は一般市民のみなさんが通常リスクヘッジする行為に対しても、果敢に臨むことができたのだ。

畢竟それは、かの老婆も自らの小悪党的老害行為を恥じたであろうし、世の中の犯罪行為に対する抑止にも貢献する形となった。

このように、筋トレもしくはボディメイクというのは、単純なるフィットネスの域に収まらない多くの利益を私達にもらたしてくれる活動である。

このエピソードが、不甲斐ない自分自身に失望している一人でも多くの人にとって、ボディメイクに目覚めるきっかけとなることを願ってやまない。

 

追記;

実は先日、私のビジネスシーンにおいても理不尽な要求を繰り返していたクレーマーがいた(ちなみに強面な男性であった)。対応した若手男性職員が抑えきれない様子であったので、私が対応を代わったのだが、一撃で帰宅の途に追いやることに成功した。もともと要求自体が理不尽であったので、理路整然と世の中の一般常識を説けば、だれしも納得せざるを得ない要求ではあったのだが、悪質クレーマーを一撃に伏したのには、もちろん、「鬼神も之を避く」前腕を魅せつけたことの功績が大きかったと私は分析している。その後、初動対応した後輩から「自分ではなんともできませんでした。あんないとも簡単にご納得いただくために、私は一体、どうしたらいいのですか?」と質問を受けたので上述の話を交え「筋トレせよ」と助言した。