ボディメイクバカ一代

そのワンレップに「愛」を込めて

人並みはずれたボディへの憧憬 vol.2 ーそして暗黒の時代ー

さて、前回お話させていただいたエピソードから約2年ほど経った頃の話である。

私はちょうど、大学3年くらいになっていた。

相変わらず学業には身が入らず、大学の授業にもほとんど参加せずに、不登校のような状態になっていた。

特に何をするでもなく毎日を無為に過ごしていた私だったが、ある日、電車に揺られて外の風景を眺めながら

「このまま『ただ生きているだけ』で、俺は本当に大丈夫なのだろうか。とりあえず、なんでもいいから社会参加だけはしようか…」

と、ふと思ったのだった。

大学入学後の約2年、日々の日課である腕立て伏せを除けば、私は1日の大半を自宅内で無為に過ごし、心身ともに腐りかけていたのだった。

そして、いよいよここにきてこのままではいけないと思ったのだった。

かといって何をしたらいいかもわからなかったので、とりあえず、学校の研究会に所属することとアルバイトを始めることを自分に課した。

そんな時、数少ない知人のうちの1人が、たまたま私に法律事務所でのアルバイトを紹介してくれた。

仕事内容はいわゆる「使い走り」で事務員さんに頼まれた書類を裁判所まで自転車で送り届けるといった単純作業であった。

普通の日常生活を送っている人にとっては裁判所など無縁の場所だ。

最初はまるで社会見学のようで新鮮な気持ちだったが、日数を重ねると、暑い日も寒い日も雨の日も風の日も、ひたすら事務所と裁判所を往復するのは結構大変だった。

そんなある日、裁判所のエレベーターに乗っていた時。

ある階で扉が開き、一人のスーツ姿の大柄な男性が入ってきた。

眼光の鋭さが半端なく、スーツの上からでも尋常ならざる体躯をしていることが明らかだった。

見ると、首から金色のエンブレムをぶら下げている。

警察バッジだった。

つまり、この男性は刑事だった。

刑事はエレベーターに乗るとすぐに扉の方に向かって、私に背を向ける形となった。

その時の衝撃!

背中の大きさが完全に普通ではなかった。

そして、その背中から発せられる威圧的なオーラ。

おそらく、日々の鍛錬と多くの犯罪者と対峙する中で自然に醸し出されたものに違いない。

私は思わず、「うおー!」と心のなかで叫んでしまった。

刑事はすぐにエレベーターから降りていったが、私はしばらく、その衝撃から帰ってくることができなかった。

厳しい鍛錬を乗り越えた先にある身体には、圧倒的なオーラが宿る。

それをこの目で確かめることができたのだった。

そして、このときの衝撃から過日、私は警察官という仕事に憧れを持つようになり、大学を卒業後、実際にその職についた時期もあった。

しかし、私はしばらく、日常の喧騒に流され続けることになった。

気がついた時、その憧れはいつしか消え去り、私の志向は暴飲暴食に向かい、ボディメイクは意味をなさない時代に突入することになる…

 

 

社会人となった後、金と権力、地位や名誉といった世の中の人々が求める価値観の中に、私は埋没し、美しい体を保つことに価値を見いだせなくなっていた。

そして、それに比例するかのように私の身体は肥え太り、腹は地獄絵巻などによく描かれる餓鬼のように醜く膨らんだ。

かつて憧れた、あの剣道講師や刑事に対する憧憬は忘却の彼方に消えてなくなり、暴飲や過食こそが人生最大の享楽と確信するようになった。

 

 

今になってこそ思うことだが、ボディメイクは人生がどん底のときにこそ行うべき行為である。

若かりし頃の私は、ボディメイク=筋トレと捉えていた。

しかし、筋トレはボディメイクのあくまで一部である。

ボディメイクとは、美しい身体を作り保つことであり、その活動の一環が筋トレなのだ。

美しい身体を作り保つために、何を食べればよいか、何をすればよいか、ひいてはどう生きればよいか…

ボディメイクは生活全般なのであり、今呼吸をしているこの瞬間でさえボディメイクなのだ。

社会との違和感の中に生きた学生時代、私はそのことに気がついていなかった。

社会人となり、ろくな結果も出せずに刹那的な享楽で自分を誤魔化した時代には、もはやボディメイクなど眼中になかった。

しかし、そういった不遇のときにこそ、ボディメイクが自分の中に規律を与え、生きる力を呼び戻してくれるのが本来だと、今は思う。

映画『ロッキー』で人生を大逆転させたシルベスター・スタローンは、かつてホームレスのようなどん底にいたとき、生きる力を取り戻すため、ボクシングジムに通い始めたという。

仮にあなたが不遇の中に涙しているのであれば、スタローンがボクシングに活路を見出そうとしたように、ボディメイクを始めることをおすすめしたい。

富や名声がなくても、地位や権力がなくても、1日1時間だけボディメイクすれば、その1時間があなたの日々の生活の中に安定した時間として存在するようになる。

それが生きる力につながるのだ。

 

ボディメイクするすべての人に幸あれ。