我が国には年に2回、5月と9月に大きめな連休がある。
もともと5月のそれはゴールデンウィークと呼ばれていたが、いつの頃からか、9月の方はシルバーウィークと呼ばれるようになった。
今日の私は、そんなシルバーウィークにもかかわらず、出社しなくてはならず、朝からスーパーネガティブな気持ちだった。
そもそも、私の勤め先は、私が入社した当時より「労働者に人権はない」とでも言わんばかりに年中無休のブラックぶりを呈していた。
年末年始、夏休み、ゴールデンウィーク…
一切関係なく出勤。
人を人とも思わぬ鬼畜の所業であったが、さすがにそれはやりすぎたと思ったのか、いつの頃からか、年末年始だけは休ませてやる、ということで若干の緩和を見、現在は正月三が日だけ辛うじて休暇を取れるというスタイルになった。
しかし、裏返せばそれは正月三が日以外は正式に連休がなく、私たちは、精根尽き果てるまで働かされるという、あたかも、19世紀ロシア帝政期に酷使されていた農民奴隷のように生きなくてはならないのだった。
さて、世の中が休日モードでゆるやかな朝、私が影で「狂犬」と呼んでいる、通行人の誰彼構わずに吠えまくる小型犬が、今日もまた誰かに向かって吠え散らかしている遠吠えが響く中、うつむき加減で出勤していた。
しかしそんな私は、いつものスーパーネガティブな様子とは少し違っていた。
手元にはケータイ。
しきりに何かをいじっている。
画面には、四角い赤の箱に「М」のマーク…
そう、私はついに「メルカリ」に認証してもらうことができたのだ!
数日前、買ってはみたものの、ろくに読みもせずに放置していた古本の山を、ブックオフに持ち込もうと段ボールに詰め込んでいた。
これまでの経験上、ブックオフに古本を持ち込めば数千円のキャッシュバックがゲットできる。
しかしその時、ふと思った。
私は、普通の人があまり読まないようなマニアックな本をたくさん持っている。
たとえばこれを単品で売ったら、もっとおカネがかえってくるのではないだろうか…
そこで思いついたのがメルカリだった。
以前、楽天ラクマか何かに登録し、おもちゃを買ったことがあったが、その際、システムがよくわからず、出品者からのメッセージにろくに返信もしないでいたところ、逆に出品者から最低評価をされたという苦い経験があった。
フリーマーケットである以上、相手も一般人だから、普通の店のようにその問いかけを無視してはならなかったということらしい。
いずれにせよ、楽天ラクマにはそういった経緯から、それ以来いじることはなかった。
しかし、メルカリなら知名度もあるし、以前の苦い経験を活かして、新天地で心機一転やってみるのもよいかと思った。
早速、ユーチューブでメルカリの何たるかを研究する。
いろんな人が解説動画を出しているので、とりあえず、検索で一番に出てきた人の動画を視聴した。
早速、登録作業を開始。
個人情報をスパスパ打ち込んでいくのだが、最後に、本人確認なるものが出てきた。
「こんなのユーチューブでは言ってなかったぞ」
と、思いつつ、ここで断念してはいままでの作業が無駄になる。
免許証を写真にとってアップロードした。
翌日。
「うまく読み込めず、確認ができませんでした」
とのメールが来た。
「え!?」
と、思いながら再び送る。
すると、
「うまく読み込めず、確認ができませんでした」
再度送る。
翌日、
「うまく読み込めず、確認ができませんでした」
「…!?」
いよいよここに来て、「俺の顔写真が悪人面過ぎて、疑われてるんじゃねぇか!?」と疑心暗鬼になった。
こんなやり取りを相当回数繰り返し、やっと承認されたのが昨日だった。
「いよいよ社畜を卒業し、夢のフリーランサーに向けての一歩を踏み出す準備が整ったな(ニヤリ)」
狂犬の遠吠えを背に、私はほくそ笑んだのだった。
(後日談:その後メルペイの審査申し込みするも審査とおらず。やはり免許証の悪人面が引っかかっているようだ…)