子供の頃、強烈に好きだったものの1つにナポリタンがある。
実家の近くに「ドライブインМ」という、プロトタイプな田舎の食堂があった。
今から思えば、冷凍食品、手抜き料理フルコースのポンコツだったが、なにせ娯楽らしい娯楽などほとんどない田舎のことだ。
そんなポンコツ料理屋のメシでも、食べに行くのがとても楽しみだった。
私は決まってお子さまランチを頼むのだったが、そのお子さまランチのすみっこに少量乗っかっているナポリタンがとても好きだった。
はっきり言って、そのナポリタンが食べたくてお子さまランチを毎回注文していたと言っても過言ではない。
いっそのことナポリタンという単品メニューがあってくれればよかったが、なぜかそれはなかった。
それから何十年と経った今でも、当時の私のスパゲッティに対する、なんというか一種のノスタルジックな執着心は変わらない。
それゆえに、私は別に食べ歩きの趣味はないが、いまだに美味しそうなスパゲッティを見かけると、ついつい足を止めて、店に入るかしばしば迷ってしまうクセがある。
さて先日、たまたま書店に立ち寄ったところ、『10分パスタ』なる本が置いてあった。
何やら有名なインスタグラマーなぞが書いたものらしい。
パラパラめくってみたところ、そこに書かれたレシピなら、自分にもできそうな気がしてきた。
著者の言いたいことは、悪意はないが、わかりやすくするためにあえてデフォルメして表現すれば、
「とりあえず、白出汁ぶち込んどけばうめぇパスタができるから」
ということらしい。
ものは試しで本書を購入して、数年ぶりに台所に立った。
早速ツナのトマトソースを作ってみる。
生来、私は不器用な質なので、シンプルなレシピであってもやはりそれほど美味しくできなかった。
もっとも、本書は一人暮らしの人向けに書かれているようだったから、一人前の分量で紹介されている。
私は、自分と妻と子供の分とで作ったから、何か分量的な部分におけるコツを逃した可能性もあった。
その数日後、リベンジを誓ってもう一度挑戦。
前回は麺の茹で時間を短くしすぎてかたかったという反省点を活かした。
すると、だいぶ味は良くなった。
そして、次の週。
やや自信をつけた私は、今度はカルボナーラに挑んだ。
前回のメニューと違って材料も増え、やや難易度が上がっていた。
しかしながら、これまでの経験が着実に活きていて、実食してみると「食える」ようになっていた。
そして、その夜、再び私は腕をふるい家族にカルボナーラを振る舞った。
子どもは「まずっ!」とか、憎まれ口を叩きながらも、完食していた様子を見ると、それなりの完成度だったのだろうと思う。
久しぶりに料理をやってみたが、やってみると意外に楽しいものであった。
幼少期、今思えば安っぽさ全開だった当時のドライブインМのナポリタン。
いずれもう少し腕が立つようになったのならば、あのナポリタンの再現にでも挑んでみようかと思う。
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